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危機管理の本質② ~災害対策本部における参謀役(軍師)の必要性~ | KKEの 企業防災・BCPコラム

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危機管理の本質②
~災害対策本部における参謀役(軍師)の必要性~


災害対策本部における「本部長」が指揮官であり一軍の将であるとしたら、参謀役(軍師)は誰が担うのでしょうか。

過去の歴史では、劉備の下に諸葛亮孔明があり、豊臣秀吉の下に黒田官兵衛がいて、それぞれの組織・チームを支えてきました。災害対策本部では、誰が参謀役を担い、参謀役を担う者にはどのような振る舞いが求められるかについて、今回は考えてみたいと思います。

災害対策本部における「参謀役」とは?

まず参謀役とは何かという点を確認しておきたいと思いますが、組織の知恵袋、先を見通してトップに意見具申する者、組織全体の調整をはかる者、といったイメージでしょうか。

一方で、日本はよく「黒幕社会」と言われてしまいますが、皆に見えないところで自身と自勢力のために利益誘導をする黒幕的な意味は、参謀は一切持たないと定義したいと思います。自組織全体を俯瞰し、自組織の総合的な利益を考え、同時に国や地域社会とのバランスもとり、社会公共性を重視するのが災害対策本部における参謀役であると思います。

災害対応において参謀役不在の組織は苦戦する

そのような参謀役が不在の組織は、現実の災害対応において非常な苦戦を強いられるという実例が報告されています。

2015年9月に発生した関東・東北豪雨では、関東地方では鬼怒川が氾濫し、流域の茨城県常総市が災害対策本部を設置したものの、避難誘導の遅れを指摘されるなど、災害対策本部の運用に多くの課題を残しました。

常総市がとても素晴らしいのは、その失敗事例を徹底的に検証し、検証過程もオープンにしているということです。普通は何か失敗があると責任をとらず、情報も隠蔽することが多い我が国ですが、常総市は真逆を進みました。あっぱれです。

この検証結果が「平成27年常総市鬼怒川水害対応に関する検証報告書―わがこととして災害に備えるために―」という報告書にまとめられています。自治体における参謀役は「防災担当課」にあたるわけですが、これを企業の総務部やリスク管理室と置き換えて、ぜひ皆様ご一読頂ければと思います。

災害対策本部における参謀役の重要性

常総市の検証報告書によれば、常総市災害対策本部は、次のような状態に陥ってしまったとのことです。

● 災害対策本部ではメンバーの役割分担がないまま全員対応が続けられた結果、対応が逐次的になりがちになったほか、必要な対策内容の抜けや漏れを生む温床ともなった。

● 災害対策本部会議と同事務局との連携が不足しており、本来安全安心課が担うべき災害対策本部の事務局・参謀機能の役割を果たせなかった。

● 災害対策本部の運営が平素の庁議の延長上で行われるものと解釈されたことから災害対策を所管する市民生活部長や安全安心課長が災害対策本部での議論をリードできなかった

平成27年常総市鬼怒川水害対応に関する検証報告書」より引用

 

常総市をはじめとする地方公共団体、特に災害応急対策の担い手である市町村は、一般的な企業より危機管理体制に移行する頻度は多いので、実務経験もそれなりに積まれている状況です。それでも上記のような弱点が顕在化してしまったということは、これらの弱点について、各企業においても留意すべき点があるのだと思います。

具体的には、危機管理体制に移行した場合に、役割分担を明確にして機能的に各課題に対処する必要がありますが、この役割分担のうち「誰が参謀役を担当するのか」が非常に重要です。そしてこの参謀役に「考える」ことに専念してもらうような環境整備をしていくことが求められます。

災害対応において参謀役は戦略・基本方針も立案すべし

参謀役は考えることに専念し、組織全体への個別具体的な指示命令の案を示します。加えて、事態の推移を予測し、組織全体に戦略・基本方針を周知徹底して、機能的な災害対応を実現していくことも求められます。

戦術にこだわり過ぎて戦略が誤っていたり、戦略が不在であったりすることは、官民問わず日本組織の致命的な弱点です。常総市では実際に、下記のような状況になってしまったそうです。

● 災害対策本部では「情報分析」、「対策立案」、「確認・承認」などの役割分担がないまま全員対応で対策が立案・決定された。

● 情報の整理・分析が行われず、俯瞰的な全体状況把握ができず、状況認識の統一が図られなかった

● 対策の立案と決定が一体的に行われたことで対策内容の抜けや漏れのチェックが十分でなかった可能性がある。

平成27年常総市鬼怒川水害対応に関する検証報告書」より引用

 

災害対応時の企業における参謀役は誰か?

では、災害対応時の企業における参謀役は具体的には誰になるのでしょうか。

例えば、上場企業のように一定の規模があり、拠点数も複数あるような企業の場合は、対策本部の事務局を複数の部署の共管としているケースもあると思います。発災直後は人命最優先の防災対応が中心となります。その後、徐々に事業継続対応に切り替わっていくことを考えると、参謀役(特に参謀長)は、初期は管理系の部署が担い、後半戦は事業系の部署が担うという役割分担のほうが、現実的であるともいえます。

一方中小企業では、首尾一貫してトップ(社長)が、指揮官と参謀役を兼務する必要があるかもしれませんし、そもそも防災対応と事業継続対応を全く同じ部署が担当するということも珍しくありません。このような組織においては、平時からよくコミュニケーションをとり、トップの考え方をメンバーに浸透させておくことが、大企業よりさらに重要と言えるかもしれません。

皆様、この機に、災害対策本部における参謀役について考える機会をもってみてはいかがでしょうか。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

以上

森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健

 
           
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