シミュレーションの使い方
ブラックホールの浦島効果から父娘の愛情を描いた映画「インターステラー」(2013年)をご覧になったでしょうか? 途中、ブラックホールの画像が出てきますが、実際に撮影に成功した画像(2019年イベント・ホライズン・テレスコープによる)に良く似ていると話題になっています。科学的考証に基づいたシミュレーションによりブラックホールが描写されたとのことです。
最近ではシミュレーションが、映画だけではなく、ゲームやスポーツや、また実験が難しい現象の解明などにも使われていますが、今のパソコンの計算能力は約20年前のスーパーコンピュータと同程度だそうですから、シミュレーションの利用が普及しているのもコンピュータの能力向上が背景にあるのでしょう。
地下深い場所で発生した地震動が固い地盤を伝わってきて、建物の下の柔らかい地盤で増幅し、建物を揺らして、壊れるなどの現象を、私たち(構造計画研究所)がモデル化してシミュレーションができているのも、コンピュータの計算能力のおかげです。
最近はアニメーション技術も進んできて、映画ほどではありませんが、建物の地震による影響をシミュレーションした結果をわかりやすく可視化できます。しかし結果の”評価”は簡単ではありません。建物のモデルは、柱や梁といった構造部材で構成されていて、設備などは重量としてのみ考慮されていますし、地震動や地盤についてもよく吟味した上で見なければ、過大又は過少評価につながってしまいます。また自社開発のプログラムを使用していますが、計算途中の異常もチェックしていかなければなりません。
私たちの仕事では、お客様が許容できる被害程度を合意し、効果的な補強方法を関係者で検討する「たたき台」としてシミュレーションを使い、企業としての意思決定に役立てて頂いています。お客様の意思決定をミスリードしない為に、シミュレーションの力学的モデルを作成する段階から、当社の地震動チーム、応答解析チームに加えて、設計チームも加わって「モデル化連絡会議」と呼ぶレビュー会議で様々に吟味しています。専門の違うメンバーが、それぞれの視点で議論しながら、対策の実現性の検討なども含めた何段階かのチェックを経て、はじめてお客様へご説明することになります。
今後、コンピュータの計算能力も更に向上し、複雑な問題も解けるようになってくると思います。私たちは、モニタリングによる結果の検証も含めて、より効果的なシミュレーションの利用技術を身に付けてまいります。
2021年5月 古川欽也