本稿執筆後の2024年1月1日に「令和6年能登半島地震」が発生いたしました。
被災された皆様に、心よりお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い復旧を祈念申し上げます。
競争をしなければ、競争力は低下します。
ここにいう「競争」とは、嘘と欺瞞(ぎまん)と偽装と談合にまみれた「足の引っ張り合い」を指してはいません。公平・公正な競争環境を維持し、技術力その他ノウハウや製品・サービスの品質を競い合うことを意味しています。分かりやすくいうと、卑怯な振る舞いをせず、正々堂々と切磋琢磨するような競争環境の整備が本来必要なのです。
公平・公正な競争環境を支えるもの
官民ともに、不正・不祥事に関するニュースが毎日のように報道されています。数値をごまかしたり、本来評価されるべき「正直に通報した者」が組織から追及されたり、
株主や国民から見えない裏側でお金が動いたり、形式的には競争をしている風を装っていながらムラ社会(関係者)内で結果は決まっていたり・・・。
これでは競争力が向上するわけありません。
ルールは守る。仮にルールがなくても「あるべき姿」を考え高い倫理観を維持する。正々堂々と競う。正直に対応しズルはしない。切磋琢磨する。そのうえで困ったときは助け合う。この当たり前のことが社会全体でできなくなり、日本は「つまらない国」になってしまったのでしょうか。
また、不正・不祥事が発生すると、わが国では多くの場面で「制度・仕組み」が原因だと指弾されることが多いのも気になるところです。ルール改正を今後も永遠に続けるようなことで、問題の本質に向き合えるのでしょうか。政治家の裏金問題は本当に制度的な問題が原因なのでしょうか。メーカーのデータ偽装は、内部牽制の仕組みを強化すれば必ず防止できるのでしょうか。
私は違うと思っています。
海外旅行に行ったときの出来事ですが、ホテルのエレベーターに乗降する際、私は出来る限りボタンを押す係を担当するようにしています。旅行先には一定程度日本人も来ており、エレベーターで一緒になることもよくありました。エレベーターを降りる際、海外の方々は「サンキュー」と言って、私のボタン係としての労をねぎらってくださいますが、明らかに日本人と思われる方々は、ほぼ無視をして降りていくことが多いように感じました。
私はこのあたりに問題の本質があるのではと感じています。競争力の源泉は「人」ですから、一人一人の競争力と、競争以前の振る舞い・心構えの双方が問われているのではないでしょうか。周囲や相手(ビジネスの場合は顧客)を見ず、自分のためだけに仕事をしているから、嘘・ごまかしが増え、結果として競争力低下という地盤沈下が起きるのだと思います。
BCPの策定・見直しの過程において重視すべきもの
BCPの策定や見直しについても、この視点は重要です。
まず自社として第一に考えるべきは「正しくリスク・課題が洗い出されているか」ということです。BCPの推進部署である、BCP事務局が、各部門・各拠点とコミュニケーションを図り、各部門・各拠点は自分たちの課題やリスク、特に「何ができて、何ができていないのか」について、BCP事務局から株主・投資家まで、全てのステークホルダーにこれを正しく共有することが本来のスタート地点です。
組織の風土・統制環境に問題があり、保身に対する意識が異常に高く、正直に課題を共有できないような状況では、リスク対策としてのBCPの議論に入る前に、リスクそのものを正しく把握できない可能性がありますので、この点注意が必要です。
第二に注意すべきは、正しくBCPが策定されているにも関わらず、自社内に「浸透していない」ケースも非常に多く見られるという点です。浸透している状態というのは、その考え方に基づいて、実務上の判断・行動が出来ているという状態を指しますが、なかなかこのレベルに至っている組織は少なく、大なり小なりこの点にも課題を抱えています。
社長等の組織の総責任者は配下の経営層に対して、役員等の経営層は管掌する組織に対して、各組織の部課長は自身の部下たちに向けて、BCPの理解促進と日々の業務のBCP視点での改善・改革を促し、同時にこれを浸透させる必要があるのですが、言うは易し行うは難しです。
ここからが最も重要な視点ですが、これらの課題を全て「制度・仕組みの問題」に帰してしまっていいのでしょうかというのが、私は最も申し上げたいところです。
もちろん制度やルールの改正によって解決できるものは少なくないかもしれません。しかし一方で、そこに存在する人が考え方を変え、行動を変えなければ本質的な問題解決にならない場合も非常に多いのです。
BCPの取組みを通じて実現する組織改革
私は、BCPコンサルタントとして各社のお手伝いをさせて頂きながら、心の中で「この会社に本気で変革してもらいたい」という強い覚悟を秘めています。会社が変わらないとBCPは組織に定着せず、策定や見直しが済んだ後(コンサルタントが去った後)にすぐ形骸化してしまいます。
BCPの策定や見直しを通じて、会社の組織風土まで変革させ、自走力を高めておけば、コンサルタントが去っても、またBCP事務局のメンバーが仮に総入れ替えになっても、その組織のBCPは盤石です。少なくとも形骸化することはありません。そしてこのような組織は着実に自社の競争力を高めていくことが可能になります。
BCPの取組みを通じて組織の体質改善を図っていけば、個々の企業にとっては自社の競争力向上にもつながり、最終的には日本全体の国際競争力向上に向けて「反転攻勢」のきっかけになると私は考えています。
新年を迎え、今年も新たな仲間がジョインしてくださることに期待し、心躍らせています。BCPに正面から取組み、組織の体質改善を進め、お客様から選ばれ、同時に従業員に魅力を感じて貰える組織を作ってまいりましょう!
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
以上
森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健