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Is値を基準とした一般的な補強方法の問題点とは? | KKEの 企業防災・BCPコラム

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Is値を基準とした一般的な補強方法の問題点とは?

前回は、シミュレーションで何が分かるのか? について具体的な鉄骨工場の事例を用いて解説しました。シミュレーションを用いることで想定地震に対する工場の挙動や被害を詳細に把握することができます。地震時の挙動や被害が分かれば、補強案にも様々なアイデアが生まれます。

今回は、工場の一般的な補強方法の問題点をご紹介します。ここでご紹介する「一般的な補強方法」とは、Is値を上げるために提案されることが多い補強案のことです。しかし、これらの補強案は行き詰まることが多いです。なぜ行き詰まるのでしょうか?

Is値を基準とした一般的な補強方法① ブレース設置

一般的に、Is 値を上げるための補強計画を立てる場合、柱間にブレースを設置する方法がオーソドックスな提案になります。

 

ブレース設置による補強イメージ
ブレース設置による補強イメージ

 

建物の変形を抑えるために突っ張りをいれるという思想で単純明快です。しかし、ブレースを設置した箇所は、人も荷物も通れなくなるという問題点があります。

工場の場合、生産ラインや経路にはさまざまな配管や機械が置いてありますので、この補強案は実現できない場合が大半です。勿論ブレースを別の場所に設置することも検討しますが、代替の補強箇所にも生産ラインが通っていたり、移動するのが困難な設備があったり、と結局行き詰まることが多いと思います。

また、仮に設置できたとしても、その場合は工場の稼働を止めて工事する必要がありますので、停止期間の事業の負担を考えると結果的に工事費が嵩み非現実的となる場合が多いです。

 

ブレース設置による補強は、設計が単純で材料も安いですが、かわし工事や工場停止による機会損失などトータルの費用が非常に大きくなることがよくあります。

Is値を基準とした一般的な補強方法② 門型ラーメン

もう一つの一般的な補強方法は、門型ラーメンによる補強案です。

 

 門型ラーメンによる補強イメージ
門型ラーメンによる補強イメージ

 

門型の架構を柱間に組み込むもので、ブレースと同様に考え方は明快です。一見通路を塞がないので良いように見えますが、これにも問題があります。実際の工場の柱の周辺には電気や水などの配管がありますし、機械の寸法がギリギリで収まっていたりすると設置できません。また、ブレースと同様に施工する際は、工場を停止する必要があります。

 

このように、Is値を基準とした一般的な補強方法は、設計の考え方が単純明快で、材料も比較的安く、建物の耐震性を向上させることができます。

しかし、生産設備を有する工場施設では、運搬ルートや設備配管などを考えた場合、施工できる箇所が大幅に限定されるため、施工が困難な場合があります。

さらに、工場の稼働を停止した場合には、稼働停止期間の負担も考慮しなければなりません。生産を長期に止める工事になると、トータルコストが莫大になってしまうため「耐震診断を実施して、いざ補強工事を実施しよう!」としたところで行き詰ってしまうケースがほとんどです。

まとめ

今回は、Is値を基準とした工場の一般的な補強方法の問題点についてご紹介しました。内容をまとめると以下のようになります。

 

● 目標Is値を満足させるために提案されることが多い一般的な補強方法には、ブレースや門型ラーメンの設置がある。
● ただし、工場の補強工事には様々な制約条件があるため、これらの補強方法が現実的ではないケースがよくある。
● さらに、工場の稼働を停止して補強工事を実施する場合には、稼働停止期間の事業負担も考慮する必要があり、トータルコストが莫大になってしまう。

 

では、Is値を基準とした一般的な補強方法で行き詰まった場合には、どのような方法が考えられるのでしょうか?
次回は、私たちが実際に提案し採用された「制震補強」という方法についてご紹介します。

 

構造計画研究所 企業防災チーム

 

 

 
           
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