今回も、防災・BCP・リスク管理の専門家の森健さんによる連載記事をお届けします。
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勤務時間中に突然強い地震が発生!!
このような場合に速やかにどのような対応をとるべきかについては、多くの企業で「防災マニュアル」や「初動対応マニュアル」といった形で整理されていることが多いと思います。
各企業とも防災に関する活動は、事業継続計画(BCP)に関する活動よりもその歴史は長いことが多く、自社としても「BCPはまだ課題が多いが、防災は大丈夫」と感じているケースも散見されます。
今回はこの防災対応特に発災直後の初動対応について、つい見過ごしがちな基本的な課題や対応事項について考えていきたいと思います。
屋外への避難か、施設内待機か
地震発生直後には、各建屋単位、各フロア単位に自衛消防隊や防災委員会といった拠点の防災組織のメンバーがリーダーシップをとって各種対応を開始することになります。具体的な対応としては、まずは身の安全を確保し、救出・救護が必要な者がいないか確認し、工場等の場合は稼働している各種設備を安全に停止させることが必要になる場合もあります。
その上で、屋外へ避難するべきか、または施設内に待機することが合理的なのかを判断することが求められます。オフィスビルでその地下街に飲食店が入居している場合は、仮に情報がなくても、一旦屋外に避難して状況把握に努めることが必要になるでしょう。逆に、高度な耐震性能を保有し、または免震構造のオフィスビルの場合は、低層階に火災リスクがない場合は、そのままオフィス内に留まることのほうが合理的な判断といえるでしょう。これらの点について、事前に基本的なパターン分けをして、発災時の判断の助けになるよう纏めておくことが重要です。
また近年見られる潜在的な課題については、テレワークの導入やフリーアドレスの採用により、初動対応に精通しているメンバーが現実にオフィスに出勤していなかったり、規模の大きな企業ではお互いに「どなたでしょうか?」から確認が始まるケースもあるので注意が必要です。
屋外への避難を決断した場合は、内部に取り残される者がいないよう、原則として管理職以上の者が2人一組になり、更衣室やトイレなども含む全フロアを最終点検し、取り残された者がいないことを確認して、自らが最後に退出するという殿(しんがり)役を置くことも重要です。また、ヘルメットはすぐに着用できる場所に配置しておくことや、貴重品をさっと持ち出せるようにしておく(難しい場合は、持ち出せないことを覚悟し代替方法を検討しておく)、冬季においては防寒着を持って避難するよう心がけるなども重要です。
再入構時の判断~本当に入って良いのか?~
一旦屋外に避難した場合であっても、屋外で災害対策本部を設置したり、屋外に長時間留まることが難しい場合もあり、さらに事業や業務の継続の観点からは、建屋内に戻ることが求められます。 しかし一方で、地震発生後の「余震リスク」が比較的高いタイミングで、建屋内に入ることを命じたり許可したりすることが、各従業員に対する安全配慮義務違反の状態を作出する可能性があるので、根拠のない判断は非常に危険です。
このような場合を事前に想定し、建築の専門家に応急危険度判定をお願いできるような準備をしておくことも対応策の一つです。また事前に専門家にお願いして、入構可否の判断のための「チェックリスト」を作成し、これに基づいて最上位の職制の者が決断するという方法も可能でしょう。また入構の可否を判断できるようなシステムの導入を検討してもよいかもしれません。※
防災においても「実効性」が重要
筆者は常々、BCPの実効性(本当に役に立つのか?自社の弱点補強につながっているのか?)を訴えていますが、防災についても同様だと考えています。今日ご紹介したのは潜在的な課題のごく一部です。「防災対策の土台の上にBCPがある」という視点に立って、防災対策の実効性も向上させてまいりましょう!
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
以上
※構造計画研究所では、地震発生後の建物立ち入り判断を支援する建物被害評価システムをご提供しています。
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