2022年5月25日に、東京都による「首都直下地震等による東京の被害想定」※1が公開されました。10年ぶりの公開ということで、前回から何が変わったのでしょうか。また、被害想定の前提となる「首都直下地震」についても詳しくみてみましょう。
今回の地震被害想定の概略
報告書によると、東京都は東日本大震災を踏まえ、平成24年(2012年)※2と、平成25年(2013年)※3に被害想定を策定以来、住宅の耐震化や不燃化ほか様々な対策を推進してきました。また、人口構造や世帯構成の変化のほか、地震については最新の知見等が蓄積されるとともに南海トラフ巨大地震の発生確率が上昇するなど、東京都を取り巻く環境変化もありました。今回の地震被害想定の見直しは、これらの変化を踏まえた首都直下地震等発生時の被害の全体像の明確化等を目的として実施されました。
また、科学的知見に基づく被害像の客観的な定量化・具体化を引き続き重視するとともに、新しい点として、定量化が困難な事象についても定性的な評価を行うことで、首都直下地震等発生時の都内の被害の全体像を評価しました。これは、報告書の別紙で「身の回りで起こり得る災害シナリオと被害の様相」としても時系列で分かりやすく整理されています。
被害想定の前提となる想定地震とは
ところで「首都直下地震」とはどういう地震でしょうか。詳しい方はよくご存知と思いますが、改めて確認しましょう。首都直下地震とは南関東地域で発生すると考えられるM7クラスの地震及び相模トラフ沿いのM8クラスの地震の総称であり、この全ての地震に対し被害想定を行うのではなく、都度選定して被害想定を行っています。選定の際には、地震に関する最新の知見をもとに発生が想定される地震の発生確率や首都中枢機能への影響が考慮されています。今回の被害想定では、首都直下地震ではない南海トラフ巨大地震が追加されているため、首都直下地震「等」という表現にしていると思われます。
今回の東京都の被害想定の対象として選定された主な想定地震は、都心南部直下地震、多摩東部直下地震、大正関東地震、南海トラフ巨大地震、立川断層帯地震です※4。下線については今回新たに追加された地震です。いっぽう、前回までは選定されていたものの、最新の知見に基づき非選定となった想定地震もあります(東京湾北部地震、多摩直下地震、元禄関東地震など)。過去の地震ですでに力が解放されたと推定されたためや、発生確率が低いことなどが非選定の理由として記載されています。このように、過去や最近に起きた地震の研究成果から、想定地震の考え方は日々進化を遂げています。
話が少々逸れますが、企業防災における地震被害想定でも、同じように想定地震の設定が重要です。被害想定をすべき場所(立地)について、公開情報(J-SHIS等)から地震環境を調査し、現時点で重視すべき想定地震を選定するプロセスが地震対策の最初の一歩であり、その後の対策にも影響するポイントとなります。
最後に
今回の東京都の公表内容は、被害の様相を具体的に伝え、「被害を減らす対策を促す」ことが主眼に置かれた被害想定でした。定量的な数値として「○万人、○棟が被害に遭う」というとその甚大さは伝わりますが、情報の受け手としては“そこまで大きな被害なら打つ手なし”と思考停止にもつながりかねません。今回の被害想定からは、「対策を打てば被害は確実に減る」「具体的に考えていこう」というメッセージを受け取りました。
企業防災チームとしては、定量的に被害程度や対策効果を示すだけでなく、発災時の現場(の人たち)をイメージし、定性的な面も含めたご支援が出来るよう引き続き努めていきたいと思います。
構造計画研究所 企業防災チーム 守武祐子
脚注・出典
※1 東京都:「首都直下地震等による東京の被害想定」(令和4年5月25日公表)
※2 東京都:「首都直下地震等による東京の被害想定」(平成24年4月18日公表)
※3 東京都:「南海トラフ巨大地震等による東京の被害想定」(平成25年5月14日公表)
※4 この他、都心東部直下地震、都心西部直下地震、多摩西部直下地震はどこの場所の直下でも発生する可能性があるため震度分布のみを参考提示。