戦略的な対応が苦手と言われる日本組織ですが、そろそろこの最大の弱点を克服して、国際競争力の向上を本気で目指すべき時期に来ています。そしてこの戦略・戦術の問題は、BCP(事業継続計画)を考える上でも非常に重要な視点で、今回はBCPに関する論点について、戦略と戦術の視点を意識しながら概観していきたいと思います。
BCPの基本方針こそ基本戦略
BCPの基本方針については、各企業共通で、
1)人命最優先
2)地域貢献
3)自社の事業継続
という優先順位を明文化しているケースが多く見られます。
BCPの基本方針は、単に自社の姿勢を示すという意味だけではなく、現実の防災・事業継続に関する平時の対策の優先順位や、発災後の有事の危機管理における対処の基本的な考え方を示すものです。その意味で、BCPの基本方針は、防災・事業継続に関する戦略として、平時・有事双方の場面において、具体的な対策・対処の決定(各種の戦術的意思決定)を事実上拘束することとなります。
被害想定も戦略的に位置づける
次に、BCPにおいて重要な意味を持つ「被害想定」についても、戦略と戦術の視点を持つことが重要です。
例えば製造業で、自社の2つの工場(※便宜上A工場、B工場とします。また代替生産が可能な製品を生産していることを前提にしています。)が相互に同時被災しない地域に存在するケースを想定します。
このケースでは、A工場、B工場それぞれにおいて震度6強の地震が発生し、施設設備に被害が生じる前提で、各種事前対策を立案することが求められますが、いわばこれは戦術的な被害想定です。
一方で、A工場で全社の8割の生産を担い、B工場で2割を生産している場合では、上記の意味合いが変わってきます。この場合、2割を生産するB工場が被災した場合には、ある程度A工場での代替生産が検討しうるわけですが、8割を生産するA工場が被災した場合は、単独拠点の被災であっても、経営戦略上、致命的な事象になる可能性をはらんでいます。
こう考えると、単純に戦術的な視点に立つと、両工場の耐震性を強化することが求められるように見えますが、戦略的な観点に立つと、A工場に優先的な先行投資を行い、次にB工場の対策に進むほうが合理的な判断ということが言えます。
戦略的な失敗を防ぐための「科学的根拠」
上述のケースにおいては、さらに、A工場・B工場双方のハザードリスクがどのような状況になっているかの把握も重要です。例えば、両工場が、実際に近傍の断層を原因とする直下型地震や、最も影響の大きなプレート境界型地震に見舞われた際に、どのように被災するかをシミュレーションしておくことも、戦略的な失敗を防ぐ意味で大切です。
もし主力工場であるA工場が、考えうる想定地震に対して大きな被害を生じる可能性が低いのであれば、B工場に先行投資することが経営上の合理的な判断となります。また両工場の被災の程度が同等であれば、素直にA工場に投資することが経営の基本と位置づけられることになります。
被害想定は事前対策を洗い出す手段として非常に重要な情報であり、要素です。それに加えて経営的な視点からも、企業の経営戦略に大きな影響を与えるような戦略的な被害想定を最優先に設定し、致命的な事態を回避しつつ、次に戦術的な被害想定に基づく各種リスク対策に移行することが経営判断として求められています。
そして、これが合理的な判断であるためには、科学的な根拠(シミュレーションに基づく被害想定)であることが、重要な意味を持ってくるのです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
以上
森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健