「悪がはびこるのは、善人が何もしないからだ」
これはある映画のラストシーンの主人公の言葉です。つい先日この映画を視聴し、私はこの言葉に打ちのめされました。
職員の半数以上が「首長がハラスメントしている」とアンケートに答えているのに、どうして当該首長は辞めないのか、あるいは辞めさせられないのか。どうしてイジメ問題が小中学校を中心になくならず、教育委員会や行政サイドの隠蔽がなくならないのか、民主主義社会なのに・・・。
根本的には実施者・実行者の責任です。この責任は非常に重いですね。同時に周囲・関係者の不作為もこれを助長させる要因となっています。
実は、この両方の視点から「組織のガバナンス」や様々な「全社的な取組み」を考察していく必要があるのではと思うのです。
BCPを推進する事務局組織に起こりがちな問題
BCP(事業継続計画)を担当する総務部やリスクマネジメント部などの、いわゆるBCPの事務局組織には、そもそも正しくBCPを理解し、社内に浸透させ、個別のリスク・課題を積み上げて戦略的な課題へと昇華させていく取組みが求められています。
この点については、様々な場面で私は問題提起をしてまいりましたが、そもそも正しくBCPを理解していないケースや、理解していると思い込んでしまっているケースや、コンサルタントからそのようにコントロールされているケースも散見されます。
現実の組織内では、ひとたび分厚い資料集のような役にも立たないBCPを作ってしまうと、軌道修正に向けてきっかけが掴めなかったり、自己否定になるので「BCPの見直しが必要だ」と自ら声をあげにくい環境があったりということもあるようです。
これはBCPに限らず、内部統制全般の問題ですが、内向きになり、他社との比較や本質的な議論が疎かになると、組織としての自浄作用や修正能力が低下してしまうことになります。
BCPにおける内部監査部門や監査役の役割
そこで内部監査部門や監査役には、自浄作用の最後の担い手として、これらの状況を指摘し、BCP事務局に対して軌道修正を促す(改善指示を出す)という重要な役割が期待されています。
特に、多くの企業でBCP策定後一定の期間が経過し、関心の多くがサステナビリティに極端に向いてしまっています。こうした状況の中で、そもそもBCPの議論は時代遅れだと思い込んだり、あるいは我が国特有の熱しやすく冷めやすい傾向が原因で、BCPに関する維持管理が形骸化しつつある現状があります。牽制役としての内部監査部門や監査役の指摘をきっかけにし、BCPの再起動(BCP見直しに向けてのエンジン点火)をする必要性は増しつつあります。
(図)BCPの維持管理と内部統制(著者作成)
BCPの維持管理、再起動にも内部統制視点を!
具体的には、BCPの維持管理に内部統制の視点を加味し、ディフェンスラインごとにどのような役割を担わせるべきかを定義し、日々の業務の中で、それぞれの部署ごとに劣化・形骸化防止を進めていただく必要があるのです。
各職場単位、コーポレート部門、内部監査による是正の3つの軸で、単なる災害に対する備えの議論で終ることなく、その前提となる組織の風土は健全か、従業員に対する安全管理や安全配慮義務は重視されているかという点(統制環境の問題)や、各現場のリスクが経営層まで正しく共有されているか(情報と伝達つまりリスクコミュニケーションの問題)にまで留意し、BCPを維持管理してこそ、その形骸化を防ぐことが可能となります。
最近になり、いくつかの企業で積極的にBCPの監査が実施されはじめたことは、非常に大きな前進であると感じています。形式的な適合性監査に終始することなく、BCPの内容の妥当性にまで踏み込んだ監査や是正指導は、BCP再起動の大きなきっかけになるでしょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
以上
森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健