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地震による工場内の設備被害(1)被害の予測方法 | KKEの 企業防災・BCPコラム

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地震による工場内の設備被害(1)被害の予測方法

 

前回は、制振工法による工場の補強対策について紹介しました。シミュレーション技術を用いることで、制振工法のような新しい補強工法を検討することが可能になります。そして、シミュレーション技術を活用した補強対策は工場建物だけではなく、工場内の設備の補強検討に対しても活用できます。

そこで今回は、工場内の設備の被害想定についてご紹介します。

工場建物が大丈夫でも…

制振工法などで工場建物の耐震性能を向上させることで、地震による倒壊の危険性は低くなります。しかし、次に問題になってくるのは工場内の設備被害です。

これは2011年の東日本大震災の時から具体的な問題として指摘されはじめました。たとえば天井が落下したり、収納物が落ちたり、高価な商品や材料、設備が破損するといった地震被害が出ました。それにより人が怪我をしたり、業務が停止しサプライチェーンがうまく動かないという間接的な被害も問題となりました。

工場内部被害

 

設備被害の簡易的な推定方法

設備や家具、什器などの移動や落下による被害を予測する方法として、建築学会が中心となってまとめた簡易的な推定方法があります。下の図は、簡易的に被害を予測する式を示しています。ある大手建設会社を中心に開発されていたものを建築学会が支援し、同学会がワーキンググループで評価・認定したものです。

個別の設備にパラメーターを入力すると、倒れる、倒れない、どれくらい滑って移動する、ということが推定できます。パラメーターには、建物の揺れの最大値や、建物の固有周期などが必要になってきます。設備や家具の高さ比や重心を入れると、どれくらい滑ったか、倒れるのか倒れないのかを推定することができます。

 

物の移動や転倒を予測する方法

物の移動や転倒を予測する方法

「長周期地震動と超高層建物の対応策-専門家として知っておきたいこと- 日本建築学会 2013/11」 を元に作成

 

こうした予測手法は、転倒の有無や移動量を簡単に予測することができますが、簡易な分、個別の工場の状況を詳細に反映することはできません。

 

シミュレーションによる設備の被害予測

個別の工場の状況を詳細に反映した被害予測の方法として、私たちはシミュレーションによる被害予測手法を提案しています。

 

シミュレーションによる設備の被害予測

シミュレーションによる設備の被害予測

 

シミュレーションを用いると、複雑な現象も検討することができます。たとえば床の材質や精密な形状を考慮することもできますし、具体的な個々の地震によって、どういう被害が出るのかを具体的に評価することができます。

 

商品や設備があって、後ろに資材の入った棚があって壁があるというような状況は、簡易式では表現することができません。簡易式は、基本的には周りに何もないところに家具が置いてある状況を想定していますので、壁との衝突や、設備との衝突が評価できません。また棚の上から物が落ちてくる現象も分かりません。出来ることと出来ないことで○×をつけると下の表になります。
簡易な手法とシミュレーションの比較

>簡易な手法とシミュレーションの比較

 

単体の転倒や滑りというものは簡易式でも評価できますが、一番大きな問題は壁にぶつかって壁に倒されるような挙動、つまり設備と壁の相互作用が評価できないことです。

 

シミュレーションによる被害予測の例

東京工業大学の翠川研究室と一緒に研究したシミュレーションによる被害予測の検討例をご紹介します。
高層ビルのオフィスで長周期の地震が発生したケースを想定しています。

 

 

長周期地震を受ける高層ビルのオフィス内の例

※東京工業大学 翠川研究室との共同研究

 

まずキャスター付きの椅子が、最初の小さな揺れの段階で様々な方向に揺れ始めて衝突を始めます。衝突することによって、本来倒れないと動かないと思っていたようなものまで倒れ始めるということが一般的な傾向として表現されます。

工場でも同様で、さまざまな生産ラインの組み替えを優先して、キャスター付きのラックに設備・機械を収めている工場が多いと思いますが、そのような工場だとこのような問題が生じやすいということが分かってきました。

 

下の図は、簡易式で評価した結果とシミュレーションで検討した結果を比較した図です。

 

簡易手法とシミュレーションの結果の比較

簡易手法とシミュレーションの結果の比較

※東京工業大学翠川研究室との共同研究

 

上段は簡易手法で、下段はシミュレーションによる検討結果です。

簡易式で推定した危険範囲とシミュレーションで検討した結果は、大きく様子が異なっています。やはり物と物がぶつかって、そのキャスター付きのものが別のものにぶつかるような挙動を簡易式では表現できません。

あとは壁との衝突です。壁とぶつかって倒されるという事例は多く報告されています。おそらく電気製品を作るような工場では、そういう場面がけっこうあると思いますが、簡易式での推定は難しい事象といえます。
次にキャスターを固定し、パーティションを壁に固定するなどの対策を行った結果を検討してみます。

 

什器の地震対策の内容

什器の地震対策の内容

※東京工業大学翠川研究室との共同研究

 

 

地震対策効果のシミュレーション(左:対策なし/右:対策あり)

※東京工業大学翠川研究室との共同研究

 

実はキャスターがあると、それらが自由に動き回って早い段階で避難経路をふさいでしまうという問題があります。物が倒れて怪我をする以前に、避難しようとする人の障害物になるのは避難計画では問題事項です。

そのような現象もシミュレーションで再現することができます。キャスターを滑りにくく、動きにくいものに対策することによって、避難経路が確保できることがわかります。さらに、揺れが大きくなってきたとしても、物と物がぶつかるという頻度が減り、大きくレイアウトが崩れて避難経路をふさぐという状況は回避できるというのが分かります。

また、動画で様々に検討できるので、お客様の経営者に対しても、説明しやすくなるというメリットもあります。

 

まとめ

工場内の設備被害想定についてご紹介しました。内容をまとめると以下のようになります。

● 地震による人的・物的被害を防ぎ、サプライチェーンを止めないためには、工場建物だけではなく工場内の設備の地震対策が必要である。

● 設備被害想定には簡易式による方法と、より詳細なシミュレーションによる方法がある。
● それぞれのメリット、デメリットを理解し、適切な方法で評価する必要がある。

 

次回は、シミュレーションを用いて地震時の設備被害を想定し、対策を検討したお客様の事例をご紹介します。
参考文献:

● 長周期地震動と超高層建物の対応策 -専門家として知っておきたいこと- 日本建築学会

 

構造計画研究所 企業防災チーム

 

 
           
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