BCPコンサルタントの森健先生による連載は、今回も対話形式でBCPのエッセンスをお届けします。架空のインタビュアー「森梅太郎」が様々な企業のBCP関係者にインタビューし、それぞれの立場から見える課題に迫ります。今回は組織の体質改善とBCPについてです。
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インタビュアー・森梅太郎(以下、梅太郎) 皆さんこんにちは。インタビュアーの森梅太郎と申します。今回も日本トップクラスのある企業の監査役(匿名希望なので「監査役X(エックス)」さんと呼ばせて頂きます)にBCPに関するインタビューを続けたいと思います。
今回のテーマは「組織の体質改善とBCP」です。さて、どんなお話が飛び出してくるでしょうか。それでは、インタビューを始めましょう。
組織の体質改善とBCP ~ブラック企業にBCPは似合わない~
梅太郎 こんにちは。今日もよろしくお願いいたします。早速ですが、今回お伺いしたいテーマは「組織の体質改善とBCP」についてです。このテーマ設定自体、監査役Xさんからのご提案ですが、私には一見、関係ないようにも思えてしまいます。
テーマ設定の趣旨から教えていただけないでしょうか。
監査役X 承知しました。
たしかにBCP(事業継続計画)というと、災害やサイバー攻撃などのリスク・危機を想起することと思います。リスクや危機への対処が中心で、組織の体質とはあまり関係ないのではないかと。しかし根底の部分では、BCPの問題と組織の体質の問題は、実は密接に関係しているんです。
梅太郎 うーーーん、、、なんとなくは理解するのですが。
たしかに、リスマネジメントやBCPの取組みは「経営そのものである」と言われることもありますので、そうかもしれないかなとは感じます。具体的にBCPに関連して深掘りすると、どのようなことなのでしょうか。
監査役X そうですね。机上の空論にならないよう、具体的な議論にしましょう。
例えば、前回のインタビューで「世にも恐ろしいBCP」のお話をしましたが、BCPが機能していない原因の一つに、この組織の体質の問題があり、逆にまた、組織の体質に問題があるからBCPの取組みが議論にすらならないという現象が起きているのです。
例えば、業務の属人化の問題。「組織自体の縦割構造」はある程度許容するとしても、組織の風土やマネジメントのあり方つまり「組織の運用面」として縦割化が進み「業務の属人化」が深刻化している企業は未だに多いです。
組織・チームなのに、担当間・部門間の相互連携が希薄で、イノベーションが起きず、個人事業主の集合体のような形態になってしまっている場合。このようなスタイルでも問題ない場合もあるかもしれませんが、多くの企業では業務の属人化によって、事業継続上も、ワークライフバランス上も、潜在的な課題を抱えてしまっている場合が多いのです。
梅太郎 なるほど。事業継続だけではなく、ワークライフバランスの問題にも関係しているのですね。
監査役X そのとおりです。
例えば、ある業務について、主担当がAさん、副担当がBさんという業務があったとします。主担当・副担当間のあるべき姿としては、その業務の遂行について、相互に連携・協力したり、また互いにチェック・牽制して業務の品質を担保することが求められているのですが、業務の属人化が起きると、これらが困難になります。
業務はほとんど主担当のAさんが行い、副担当のBさんは一切登場しない。業務の状況や、喫緊の課題なども共有されない。このような状況が継続すると、そもそも副担当Bさんの当事者意識も欠落していきます。
その結果、主担当Aさんが転職してしまうと、我が社は大混乱!という状況になってしまうのです。このようなミニ危機管理は、意外と皆さんの周囲で勃発していると思いますよ。
梅太郎 同感です。先日もあるお客様から、エース社員が転職して困っているというお話を伺いました。結構よく起きている事態と思います。
監査役X そうなんです。
転職とまでいかなくても、例えば、Aさんがリフレッシュ休暇を活用して、1週間海外旅行に行った場合も似たような状況になってしまいます。まさかお客様に対して「Aさんしかこの業務は対応できないので、今日は無理です」などと回答はできません。
そして、休暇中のAさんが急遽、国際電話で呼び出され、オンラインで臨時対応するなどということになってしまい、Aさんのリフレッシュも水の泡、会社としても内部統制やマネジメントの観点で疑問符をつけられてしまう状況になるのです。
梅太郎 もしこれが災害時だったら、と想像するとなおさらですね。災害時には従業員本人が被災しなくとも、ご家族が被災した場合はその従業員は出社が難しくなるので、属人化が進んだ組織は、同時多発的に同様の事態に見舞われるわけですね。
監査役X ご指摘のとおりです。ですから、腕利きのBCPコンサルタントは「計画・文書の作成」を過度に重視せず「組織の体質改善」をゴールに掲げて、BCPの問題に向き合っています。
職場内でのバックアップ体制は機能しているか、それを支えるコミュニケーションの質はどうか、ハラスメントが横行してコミュニケーションを阻害していないか、部門間の組織横断的な連携は可能な状況かなど、文字通り「風通しの良い健全な組織の確立」が事業継続の品質向上につながるのです。
梅太郎 面白いですねぇ。よく理解できました。
ということは、暴君のようなトップが支配し、組織全体が専制国家化してパワハラが横行し、人事部門が暴君に阿り権限濫用し、従業員が上司の顔色をうかがいつつ保身のみ考えるような「ブラック企業」では、ワークライフバランスはもとより、BCPの取組みは機能しないのですね。
監査役X そのとおり!さすが梅太郎さん!
私は仕事柄、他社の監査役の方と情報交換する場面がありますが、やはり監査役の皆さん共通の意見は、「ブラック企業でBCPが機能している会社は見たことがない」というものです。専制国家までいかなくても、権威主義的な会社、ブランドばかり重視して中身を重視しない組織も、同様にBCPは機能していないという意見が多くでています。
ですので、やはり「企業の体質改善」をゴールにして取り組むことの価値は、非常に高いと思います。
梅太郎 ありがとうございます。今回も大変勉強になりました。インタビューにお付き合いいただきありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。【つづく】
森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健
※本記事は、執筆者が経験した様々な組織でのBCPの課題を元に構成した架空のインタビュー記事となります。