BCPコンサルタントの森健先生による連載は、今回も対話形式でBCPのエッセンスをお届けします。架空のインタビュアー「森梅太郎」が様々な企業のBCP関係者にインタビューし、それぞれの立場から見える課題に迫ります。今回はコンプライアンスとBCPについてです。
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インタビュアー・森梅太郎(以下、梅太郎)皆さんこんにちは。インタビュアーの森梅太郎と申します。今回も日本トップクラスのある企業の監査役(匿名希望なので「監査役X(エックス)」さんと呼ばせて頂きます)にBCPに関するインタビューを続けたいと思います。
今回のテーマは「コンプライアンスとBCP」です。一見、関係なさそうに見えるこのテーマですが、さて、どんなお話が飛び出してくるでしょうか。それでは、インタビューを始めましょう。
コンプライアンスとBCP ~安全配慮義務を履行するために~
梅太郎 こんにちは。今日もよろしくお願いいたします。
この対談企画も4回目になりましたね。今日のテーマはコンプライアンスとBCPということですが、そもそもコンプライアンスとBCPって、関係があるのでしょうか。
監査役X 梅太郎さん、問題提起ありがとうございます。関係は大ありです!
そもそもコンプライアンスとは「法令遵守」ではなく、さらに広く「社会的要請への適応」であると定義されることがようやく多くなってきたように感じます。企業の社会的責任や企業倫理の側面も加味していく必要があると考えられるようになってきました。監査も本来は、遵法性の監査にとどまらず、妥当性の監査をもっと積極的に実施すべきだということと同様です。
梅太郎 たしかに、コンプライアンスについては私も同感です。ようやく本来の意味が普及してきたように感じています。
しかしこれがBCPとどのように関係するのでしょうか。
監査役X 正確にいうとBCPというよりは防災との関係でしょうか。もちろんBCPの中核となる「現地復旧戦略」はその内実は「戦略的な防災対策の推進」なので、BCPと関係があるといっても間違いではないと思います。
具体的には、従業員や関係者に対する「安全配慮義務」の問題です。各企業は現地復旧戦略や防災対策を考える上で、従業員などの人に対する安全配慮義務を履行することを念頭に置いて戦略を立案する必要があるということです。
梅太郎 安全配慮義務ですか。聞いたことはあります。確か東日本大震災の際の津波避難訴訟の論点となった概念ですね。企業や組織側の災害発生時の対応について、訴訟で問われていました。
監査役X そうです。その安全配慮義務です。
これまでは災害発生後の問題と捉えられることが多かったと思いますが、今後は、事前対策・防災対策として捉えなおすことが重要ではないかと考えています。
梅太郎 具体的にはどのようなことでしょうか。
監査役X 例えば、ある工場の構内に、建屋が4つあったとします。仮に建屋A、B、C、Dとしましょう。これらの建屋について、地震発生時のシミュレーションを実施し、倒壊のリスクが最も高いあるいは、建屋内の施設設備の移動や転倒によって人的被害が発生するリスクが高いと判明した場合は、その企業は「安全配慮義務」の観点から必要な対策を実施することが求められると思います。
具体的には、その建屋内に常駐する従業員数を減らす、あるいはゼロにする。従業員が建屋内で緊急避難できるスペースを確保するなどの具体策を実行し、予見しうるリスクへの対策を速やかに実行することが求められるのです。
梅太郎 では、そのケースで、建屋AからDの4つの建屋で、最も古い建屋がAで、最も倒壊のリスクが高い建屋がDだった場合、更新の優先順位はどちらが優先になるのでしょうか。
監査役X 梅太郎さん、鋭い質問ですね。まさにこれが経営戦略つまりBCPそのものの判断と言えると思います。
常識的に考えると、古い建屋から順に更新しようということになると思います。しかし一旦シミュレーションを実施し技術的根拠に基づく結果が出た以上は、その結果に従って、つまり判定された危険度によって、更新の優先順位を決定せざるを得ないと私は思います。
単純にコスト面だけで判断することなく、建屋内でどのような事業・作業を行っているか、従業員はどのような動きをしているか、人が常駐しているのか一時的な滞在にとどまっているのかなどを総合的に考慮し、より安全な状態を目指して合理的な判断をすることが求められるでしょう。
特にこの場面で注意すべきなのは「コスト」が最重要項目ではなく、「安全」こそが最も重視されるべき視点だということです。コスト偏重で人の安全を犠牲にすることこそ「安全配慮義務違反」のリスクとなりますし、そもそもBCPの基本方針で「第一は人の安全確保だ」と謳っていることにも反してしまうと思います。
梅太郎 解説ありがとうございます。よく理解できました。災害発生後の対応だけでなく、発生前の事前対策からコンプライアンスや安全配慮義務を重視した経営判断が求められるということなのですね。
監査役X そうです。コスト偏重にならず、コンプライアンスの視点も加味した統合的・合理的な判断をすることこそ「経営」なのだと思うのです。
梅太郎 ありがとうございます。今回も大変勉強になりました。インタビューにお付き合いいただきありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。【つづく】
森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健
森総合研究所公式ホームページ:https://mori-global-consulting.com/
※本記事は、執筆者が経験した様々な組織でのBCPの課題を元に構成した架空のインタビュー記事となります。