前回、建物のレジリエンス性能についてお話しました。BCPを考える上では、建物がいつからその機能を果たせるようになるのか時間的な概念を考慮して、建物の抵抗力(被害を生じさせない力)を高めておくだけでなく、被災後の復旧力(復旧時間を要しない力)も併せて高めておくことが重要となります。
建物のレジリエンス性能をどのように評価するのかについては、その考え方・指標化の方法が建築学会で示されています1), 2)。今回は、その考え方をかいつまんでご紹介します。
※なお、ご紹介する考え方は現時点での公開情報に基づいたものであり、詳細な数値等は今後修正・変更される可能性があります。
どれくらいの性能を何日で復旧させるか?
建築学会では、レジリエンス性能を指標化する際、「◯日△%レジリエンス性能」と定義して考えることが提案されています。◯日△%とは、もとの性能を100%と考えた場合に、◯日後の性能がもとの性能に対し△%となっている状況を表しています。◯日が小さいほど、△%が高いほど、性能の高い建物と考えることができます。
この考え方を用いて建物のグレードを★の数で評価したものがBCPレベル指標です。BCPレベル指標は、△%を90%に固定し、その復旧にかかる時間が何日以内かで下表のとおりグレードを定めたものです。
表1 BCPレベル指標の評価基準
BCPレベル | 評価基準 |
★★★ | 90%の復旧が1週間以内 |
★★ | 90%の復旧が1ヶ月以内 |
★ | 90%の復旧が6ヶ月以内 |
標準 | 90%の復旧が6ヶ月超 |
- | 未評価 |
※「標準」は建築基準法を満足するレベル、とされています(筆者補足)
出典:参考文献1),2)を元に筆者作成
留意点としては、想定するハザード(災害やその大きさ)により★の数が異なる可能性がある点です。例えば、中小規模の地震では1週間以内に復旧できたとしても、大規模の地震では1ヶ月以上復旧に時間を要する可能性があります。この評価は、建物一つに対して一つの評価があるという考え方ではなく、想定するハザードごとに、その建物の規模や用途に応じて、★いくつの性能を持たせたいかという「目標」を定めるために用いられるものとなります。
復旧時間はどうやって計算する?
上記のBCPレベル指標を評価するためには、想定するハザードに対して復旧期間がどれくらいかかるのかを計算する必要があります。厳密に計算するためには、建物の保有性能を詳細に評価し、復旧曲線を評価する必要があります。復旧曲線がわかれば、常時の性能の90%に回復する期間を算出することで★の数を割り出すことができます。
図1 BCPレベル指標評価のための厳密な復旧期間の算出イメージ
出典:筆者作成
しかしながら、復旧曲線を評価するのには様々な条件を考慮せねばならず、またどこまでを考慮するかで変わってくるものでもあり、非常に難しいです。例えば、建物自体が壊れてしまう場合だけでなく、建物内部の電力やガス、給排水等の設備やネットワーク環境の寸断、天井の落下、スプリンクラーの被害、サーバー環境など、建物利用を考える上で構成されているそれぞれの性能が規模の異なるハザードに対しどれくらいのスピードで復旧していくのか。さらには、それらは並行して復旧するのか相互に影響しあって復旧のスピードが変わるのか等までを考えて復旧曲線を評価することが重要ですが、建物管理者によってどこまで想定しておくかは異なっている可能性が高く、一律で適切に評価するのは難しいと考えられます。
そこで建築学会では、より簡便に統一的な考えでBCPレベルを評価できるよう、非常にざっくりとした考え方ではありますが、どのような状況であれば復旧に何日を要するのかを整理してまとめています(図2)。このマトリクスは2020年1)にまとめられたもので、2021年2)に公開された最新情報によればマトリクス内部の性能の表現は後述の表2のとおり一部修正が加えられていますが、復旧日数の計算についてはこちらを参照することとなります。
図2 建築学会で提示されている復旧日数・BCPレベルの簡易評価手法
※2021年に公開された最新情報では、マトリクス内部の性能の表現は一部修正がなされている(後述の表2)
出典:参考文献1)
図中下にも記載されていますが、総合的な復旧日数は以下3点の合計として計算します。
● 主要構造部(図2 ①)の復旧日数
● 非構造部材(図2 ②)の復旧日数と設備(図2 ③)の復旧日数のうち大きい方の値
● 復旧力の各項目(図2 ④~⑦)による復旧日数のうち最も大きい値
これにより算出された復旧日数と、表1の各レベルとなるための復旧日数とを照らし合わせることで、BCPレベルを簡易に評価できるということとなります。
BCPレベルを高めるために求められるレジリエンス性能とは?
上述のとおり、2021年に建築学会から発表されたレジリエンス性能は、2020年の発表のものから修正が加えられています(表2)。
大きな変更点は、(1) 地震以外のハザードに対しても言及されるようになったこと、(2) ハザードの大きさによらない表現とするために被害程度で表すなどあえて抽象化していること(例えば地震の場合、①主要構造の構造性能を表すⅠ類等の記載は削除)、(3) 抵抗力にソフト対策の内容が追加されたこと、(4) 対象建物の性能だけでは対応しきれない外部要因という項目が追加されたこと、が挙げられます。
復旧日数の簡易的な算出法については図2に倣うこととされているため、表2の各項目を満たせば復旧日数がどれくらいと想定できるか、明確には示されていません。地震以外のハザードに対しては、地震の場合と同様と捉え大凡で評価していくことになりそうです。
表2 レジリエンス性能表
出典:参考文献2)
まとめ
今回は、建物のレジリエンス性能の評価の仕方について、建築学会で示されている方法をご紹介しました。内容をまとめると、下記のようになります。
● 建築学会ではレジリエンス性能の指標化の取り組みがあり、★の数で評価するBCPレベル指標が提案されている
● ★の数は復旧日数で決まる
● 復旧日数の厳密な計算は難しく、建物に備わっているレジリエンス性能から簡易に評価できる仕組みがある
今回ご紹介した内容についてはまだまだ課題が残るところはありますが、レジリエンス性能を高めるにはどういう機能や対策が有効なのか、今災害が起きたら復旧日数はどの程度必要そうかなどをざっくりと把握するには、役立てられる内容と思います。
弊社では、上記のレジリエンス性能を高めるための有効な施策(コンテンツ)およびそれを実施するためのコンサルティングメニューを多数用意しています。これらについて、またの機会にご紹介させていただきます。
参考文献
1) 一般社団法人日本建築学会 建物のレジリエンスとBCPレベル指標検討特別調査委員会報告書:事業継続計画策定のための地震災害等に対する建物維持・回復性能評価指標の提案に向けて、2020.3
2) 一般社団法人日本建築学会 企画運営委員会 レジリエント建築タスクフォース:多様な災害に対してレジリエントな都市・建築を目指して、2021年度日本建築学会大会(東海)、企画運営委員会(レジリエント建築)、パネルディスカッション資料、2021.9
2021年10月 構造計画研究所 防災ソリューション部 木村友香
更新履歴
表1の内容に誤りがありました(「標準」「未評価」の記載漏れ)。訂正しお詫び申し上げます。