物事には基本と応用、そして原則と例外があります。
例えば野球における投手の投球(ピッチング)の基本は、打者に対して「外角低めへの投球」であると、野村克也監督は生前よく指摘されていました。そして迷ったら基本に忠実に対応すべきだとその著書でもコメントされています。
外角低めへの投球は、打者(バッター)から最も遠いので、どんな好打者であっても打ち損なう可能性が最も高い(投手からすれば凡打に打ちとり、アウトにする可能性が高い)という趣旨と思います。
別の視点でいうと「外角低め以外」への投球については、根拠と意図をもって行うべきだということでしょう。打者の狙いを把握できている場合や、外角低めの投球を活かす意味で意図的に内角高めに一球投げておくなど、例外的な対応は明確な目的や説明責任を伴うのだと思います。
災害対応における原則と例外
我々はコロナ禍を克服するために、多くの場面でテレワークを活用しています。ITリテラシーの低い(低かった)筆者も、空港の待ち時間に携帯電話でオンライン会議をすることについて全く抵抗がなくなりましたし、出張先でもクライアント様と打合せが可能なのでビジネスの幅は格段に広がりました。一方で、ワクチンの普及も相俟って、対面での仕事もやや増加傾向にありますが、対面でのコミュニケーションの重要性と快適さも日々感じています。
このような日常の中で、災害対応における原則論はどこにあるのかという点をよく考えますが、筆者は、考えが古いかもしれませんが、やはり「原則は対面での対応」ではないかという考え方の持ち主です。
オンライン災害対策本部の陥穽(かんせい=落とし穴)
しかし現実には「オンラインで災害対策本部の運営をやりましょう!」と唱える意見も多くあり、テレワークに慣れてしまうと「オンラインでも対面と大差ないだろう」と考えてしまうのも無理はありません。
筆者も「オンライン災害対策本部」を全面否定しているわけではなく、その功罪や弱点・リスクを十分に理解して活用して頂く必要があると考えています
具体的には、オンライン災害対策本部では、まず夜間・休日を含め、初動対応を速やかに開始できるという利点があります。自宅にいても、海外出張中でも、夜中でも、全員参加を求めることは、出社方式の場合よりは容易かもしれません。
しかし一方で致命的な弱点もあり、通信環境が整っていれば可能ですが、停電等のリスクが顕在化した場合には、携帯電話基地局等の電源枯渇により、通信不能になってしまうなどの状況になる可能性があります。
また、これは災害対応に限った話ではありませんが、画面越しでのやりとりで、最悪の場合には音声のみになる場合もあり、コミュニケーションの点でも不安が残ります。コミュニケーションについては、言葉によるコミュニケーションがコミュニケーション全体の3割、声のトーン・表情・ジェスチャーといった非言語によるコミュニケーションが全体の7割とよく言われますが、オンライン災害対策本部では「非言語の7割」のほとんどを封じられた状態で対応することを余儀なくされます。
同時に、特に災害対応は拠点周辺の状況や、拠点構内の概況などを地図や図面で概括的に把握しながら対応することが求められるので、この点も従来型の対面式災害対策本部のほうに分があると言わざるを得ません。
原則論が不十分では、例外対応は上手くいかない
たしかにコロナ禍のテレワークの進展を踏まえた上で、選択肢の一つとして「オンライン災害対策本部」の体制を危機管理体制の一つとして採用することは意義があると思います。
しかしその際には、前述したようなメリット・デメリットを十分比較の上、まずは原則論である対面型の災害対策本部について十分組織的な練度をあげた上で、例外・応用問題としてオンライン災害対策本部の訓練に着手頂けると効果が高いのではと考える次第です。
またこの点について自組織内で熟議することが、コロナの出口戦略を模索するヒントにもなり、本来の自組織内のコミュニケーションのあり方を再考し、さらには危機に備えたテレワーク・出社の配分比率の議論につながるのではないでしょうか。
以上
森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健