2023年も風水害のシーズンを迎え、台風や集中豪雨による被害も発生し始めています。災害発生時に各企業は、平時の体制から「危機管理体制」へ移行し、災害対策本部を設置して全社の統制を開始することになりますが、今回のテーマはこの「災害対策本部」についてです。
災害対策本部設置(危機管理体制移行)のタイミング
はじめに、災害対策本部設置のタイミングについて考えてみましょう。
そもそも風水害の場合は、多くの場合で一定のリードタイムがあり、一気に状況が激変していくわけではないので、どのタイミングで危機管理体制に移行するか悩ましい面があります。地震災害の場合は、突然発生して各企業を危機に陥れる面がある一方で、基本的には発生した瞬間に危機管理体制に移行して「災害対策本部」を設置する必要があるので、分かりやすい面もあります。
さらに風水害の場合は、災害対策本部要員を含む従業員について、出社の抑制や早めの帰宅指示を実施する関係からも、災害対策本部設置のタイミングは悩ましい問題となります。
この点について、筆者は地方自治体の災害対応が参考になるのではと考えています。多くの地方自治体では、風水害のリスクが高まった段階でまず警戒態勢に入り、準危機管理体制といえる「災害警戒本部」を設置します。次に、事態が進み具体的に被害が発生し始め状況が切迫してきた段階で、体制を「災害対策本部」つまり本格的な危機管理体制へ格上げをします。このような移行システムを持つことも有用であると思います。
企業においても、台風が確実に数日後に襲来するタイミングで、災害警戒本部を設置し、従業員には出社抑制や早めの帰宅指示を「災害警戒本部」名で発出し、さらに危機が迫った場合は「災害対策本部」に切りかえて本格的な危機対処を開始するというスタイルが分かりやすいでしょう。これにより、各従業員に対して、その時点での危機のレベルを明確に伝えることも可能になります。
運用面での不安はないか?
次に、災害対策本部については、運用面についても不安を払拭しておく必要があります。一般的に「訓練でできないことは、実戦ではできない」と言われるとおり、ベストのチェック方法は実働訓練、図上訓練で「実際に動けるか」を定期的に検証しておく必要があります。
各企業で共通して散見される災害対策本部の弱点は、第1に、災害対策本部の組織自体が複雑すぎ、運用が追いついていないという点です。これは危機管理における重要ポイントの一つですが、組織はできる限りシンプルに作っておきたいところです。特に対策本部の班編成は、出来る限り単純化し、通常組織との比較が容易であるようにしておく必要があります。また災害対策本部のメンバーは、危機管理に関する経営判断を下すことになるので、普段の経営会議メンバーをこれに充てることが正しい本部運用につながると思います。
第2の弱点は、指揮官(本部長)は多くの企業で明確になっていますが、参謀役を誰が務めるかという重要課題について、これを意識した組織編成や訓練がまだなされていないケースも散見されるという点です。特に風水害対策の初動対応においては、事態がそこまで切迫していなくとも、意図をもって積極的に決断する場面が多く発生するので、参謀役つまり軍師がどのような意見具申を本部長に対してできるかが大きな意味をもってきます。
災害対策本部として、参謀役の方(危機管理担当役員や総務部長など、災害対策本部の事務局長的な立場の方)に、全ての情報を集め、彼らが考えることに集中できる環境を確保できるかが、災害対策本部の運用の鍵の一つとなるでしょう。
マニュアルやフローに見える化しにくい「大切なこと」
さらに、運用に関する第3のポイントは、危機管理という考え方・思考回路を大切にするという点です。風水害に限らず、どのような災害危機管理場面においても、リスクは潜在的にいたるところに存在しますし、常に決断をし続けるという組織や人の「粘り強さ」が必要です。
「情報が不十分にないが、決断すべきではないか」
「大げさかもしれないが、対処行動を開始しよう」
「天候は回復基調だが、念のため指示を出しておこう」
このような発想・行動様式は、マニュアルやフローに見える化しにくいことが多く、我々は過去の歴史や様々な事案への反省から、これらを学びとりつつ、可能な限り同時に見える化も進めていく必要があります。
組織は人なり。運用面については、このような視点も重要ではないでしょうか。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
以上
森総合研究所 代表・首席コンサルタント 森 健