トヨタ紡織株式会社 様
「旧耐震構造の工場をKKEの制震補強で対策。事業継続計画(BCP)の観点で効果を可視化」
トヨタ紡織株式会社
(左から)
生技管理部 プラントエンジニアリング室
主査 足立 幸俊 氏
生産技術本部 生技開発領域
副領域長 平 傑 氏


トヨタ紡織は自動車や航空機・鉄道のシート、自動車の内外装などを手掛け、特に自動車の内装品では国内トップシェアを誇る。同社では旧耐震基準の工場を中心に耐震化を進めているが、その効果について議論もあったという。そこで選ばれたのが構造計画研究所(KKE)の「制震補強」だった。対策の効果を可視化することで、経営陣への提案や投資判断も迅速に進んだという。
旧耐震の工場も多く残る中でBCPを視野に入れた地震対策に取り組む
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貴社の事業内容および、工場の概要などについてご紹介ください。
平氏: 1918年(大正7年)、豊田佐吉が創業した豊田自動紡織工場が株式会社に改組され、豊田紡織株式会社が設立されました。その点では、豊田紡織は、現在のトヨタグループの基になる会社と言えます。2004年に3社合併しトヨタ紡織に社名変更され、2018年に設立100周年を迎えました。主力製品は自動車や航空機・鉄道などのシート、自動車のドアトリム(ドアの内側部分)、フロアカーペット、バンパーなどの外装品、エアフィルターやオイルフィルターなどのフィルター製品などです。売上高は1兆9536億円、社員数は4万6972人です(いずれも連結・2023年度)。今回、KKEの制震補強を導入したのは、愛知県豊田市にある当社の猿投(さなげ)工場で、シートやドアトリム生産の主力工場であり、工場と開発・生産技術部門が同じ敷地内にあります。
猿投工場では2つの生産棟について、制震補強を導入されました。いずれも旧耐震基準の工場ですが、これまで対策はどのように検討され進められてきたのでしょうか。
平氏: 耐震改修促進法の施行、さらには2011年に発生した東日本大震災をきっかけに、当社では生産工場などの耐震化の検討を進めてきました。ただ、従来は人命の保護を最優先に進めて検討を進めていました。転機になったのは、2016年に発生した熊本地震です。熊本市にあるトヨタ系部品大手の子会社が被災しトヨタの全国の工場が停止しました。人命の保護は第一ですが、重要な設備が壊れるようなことがあると生産が止まってしまいます。そこで、事業継続計画(BCP)の観点で、計画を見直す必要があると考えました。経営陣や生産工場の幹部などとも何度も理解活動を行いましたが、そこで重視したのは、何のために耐震補強を行うのかという方向性をぶらさないことでした。
足立氏: 「耐震補強をしたらもう壊れないんでしょう?」と誤解している人も中にはいます。そこで震度5と震度6では建物にどのような影響があるのか、東南海や熊本地震のように大きな地震が繰り返し起こった場合に建物がどの様に壊れていくのかを時刻歴応答解析のシミュレーションデータや図版なども添えて説明するようにしました。Is値(構造耐震指標)についてもIs値1.0と0.6とではどのような違いがあるのか、建物の耐震性向上も重要であるが地盤の固有周期の影響も考慮が必要であることも経営陣に理解して頂きました。
コストを抑え、工場の操業を止めないKKEの制震補強を選択
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さまざまな選択肢があった中で、耐震補強ではなくKKEの制震補強を選ばれた理由はどこにあったのでしょうか。
平氏: 耐震補強を施しても、複数回の揺れで建物が壊れてしまうことがあります。その点で、KKEの制震補強なら、繰り返し揺れが来ても対応が可能です。
もう一つ大きなポイントは耐震補強の費用です。もちろん、必要なコストであればかけますが、それにしても、築50 年以上の工場にどこまで行うべきかという問題もあります。例えば、数十億円といった、新築に近いほどのコストがかかるのであれば本末転倒です。
足立氏: KKEの制震補強なら、建物の外付けのダンパーを利用するため、生産ラインにほとんど影響が出ないのも大きなメリットだと感じました。電気設備などを工事のために移動させるだけでも1000万円ほどかかることも珍しくありません。実際に、設備の移動などは最小限で済みました。また、猿投工場が稼働していない土曜日・日曜日を中心に工事を行うことができました。

▲プレス工場:外付けダンパーでの補強箇所
企画から設計、施工まで、KKEのサポートはいかがでしたか。
平氏: KKEの強みの一つが解析技術を武器にしたシミュレーションだと思います。当社の案件においても、想定されるさまざまな地震に対して、どのような影響が出るのか、イラストや図表、動画などを駆使してシミュレーションを行ってくれました。経営陣の中には技術系出身でない者も少なくありませんが、そのような者からも、分かりやすいと評価が得られました。投資の判断も迅速に行えたのではないかと思います。
当初、Is値はすべての工場で1.0 以上を目指す方向で対策シナリオを作っておりましたがKKE の優れたシミュレーション技術を活用することで、旧耐震建物・新耐震建物と評価基準を分けて進める事でシナリオを作り直し合意しました。事務所・工場棟・実験棟など新旧様々な建物が混在する当社にとって、現実的な解は何かと議論した結果です。
足立氏: KKEは、「これなら大丈夫」というガチガチの案を持ってくるのでなく、さまざまなシナリオに対応した、複数の選択肢を提示してくれます。それがKKEのスタイルだと思います。さらに当社が「このような案ではどうか」と質問を投げかけると、すぐに解析を行い、その是非を回答してくれました。例えば、建物を4面ではなく2面だけのブレースで支える方法は一見不安定に思いますが、シミュレーションで安心できることが確認できました。また、ブレースを支える支柱は矩形なのが一般的ですが、「これを斜めにしたら鋼材が減り、コストが削減できるのではないか」という当社の投げかけに、KKEが応え迅速に改めてくれました。工場が古いため、図面と現状が合っていないところも多く、設計を行うKKEも、施工を行うゼネコンのマネジメントも苦労したのではないかと思います。粘り強くよりよい方法を実現しようとするKKEの姿勢には感謝しています。


13事業所のすべてにKKEの技術を導入
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猿投工場だけでなく、他の工場においても地震対策が進行中だと聞きました。
平氏: 当社には猿投工場を含めて13の事業所があります。多くの建物がある中で、KKEに耐震診断を依頼し旧耐震の全てのS造建物の耐震補強を、制震技術を使いながら行いました。南海トラフ巨大地震の発生が予測されているだけでなく、建設業界の人手不足などの問題もあり、建築費も高騰していることから一刻も早く始めることが大切だと言う認識です。
足立氏: KKEとの耐震補強工事を経験した中で、費用面を考えると全ての補強を外付けダンパーで実施するパターン以外に、従来の筋交いを部分的に採用する事で、ほぼ同じ工期で廉価に実施できることもわかりました。操業、工期および費用面でベストな案になるよう知恵を絞りました。
貴社のBCPの観点も踏まえた地震対策の実現のために、KKEにどのような期待をしていますか。
平氏: どのような対策を実施すればどのような効果が期待されるのかを知ることは、当社の事業戦略のためにも欠かせません。そのためには判断の拠り所となるデータや根拠が必要ですが、KKE は私たちの小さな疑問でも納得できる形で回答してくれます。コストをかけるべきところはかけ、アイデアで削減できるところは挑戦もしてくれます。引き続き、さまざまな提案をしてほしいと期待しています。
取材日:2024年11月
※取材内容、ご担当者情報は取材時点の情報です。
トヨタ紡織株式会社 について
設立 | 1918年 |
本社所在地 | 愛知県刈谷市 |
ホームページ | https://www.toyota-boshoku.com/jp/ |